「孫疲れ」に苦しむ祖父母たち

時事問題ワークライフバランス, 三世代, 子供, 家庭, 家族, 祖父母, 結婚

最近、ネット上やテレビ番組などで、「孫疲れ」という言葉を目にするようになりました。仕事などで忙しい両親に替わって子供の面倒を見ることに、ストレスがたまり、疲労感を感じるおじいちゃん、おばあちゃんが増えていると言うのです。この問題は、筆者自身も単身赴任、共働き家庭のため、非常に関心の深いテーマです。

「三世代家庭」が、子供の成長や、女性の就労・活躍にとって有効な選択肢の一つであることは確かです。ただ、「三世代家庭」が本来の効果を発揮するためには、祖父母が喜んで孫の面倒を見たいと思ってくれていることが前提となります。祖父母といえば、無条件に孫に愛情が流れるものだと一般的には考えがちですが、「孫疲れ」とは、一体、どういう現象なのでしょうか?
 
 
「孫疲れ」をもたらす二つの要因

「孫疲れ」をもたらす要因は複数あります。ここでは二つほど、取り上げておきましょう。

一つは、晩婚化に伴う祖父母の年齢の高齢化です。仮に、祖父母世代が20代前半で、両親世代が25歳で出産したとすると、初孫を迎えるときの祖父母の年齢は50歳前後となります。その場合は、男性(祖父、父親)が正規労働につき、母親か、祖母が非正規あるいは正規で就労すると、世帯収入を月5-60万円確保したうえで、家庭で育児をすることができます。その場合、母親がフルタイムで働いていても、祖母は50前後で体力もありますので「孫疲れ」は限定的です。

しかし、祖父母世代が20代後半、両親世代が30歳以上で出産した場合は、初孫を迎えるときに祖父母世代が60-65歳となっており、定年で年金生活に入っていたり、体力的にも下り坂であるために「孫疲れ」のリスクは当然高くなります。更には、孫が幼稚園、小学校くらいの年齢で、配偶者の介護が加わる可能性すらあるでしょう。

二つ目の理由は、祖父母世代と、両親世代の価値観の断絶です。育児に関する知見が発達する中で、祖父母世代に常識であったことが、現代では否定されていたりもします。例えば、かつては「抱き癖がつくからあまり抱っこしない方がいい」と言われた時期もありましたが、現在では否定されています。それ以外にも、個人個人の価値観があるわけですから、育児に対する方針も、当然、異なってくるでしょう。欲しいものを買ってあげるのか、それとも我慢させるのか。夫婦間でも異なる場合があるわけですから、世代ごとの相違も当然出てきます。

その際に、かつてのように、祖父母世代がより強い権威を持っていた時代には、その葛藤が表面化することは少なかったと考えられます。しかし、現代では、祖父母世代と両親世代が、ほぼ対等な立場を取ることが多く、その場合には、祖父母世代の孫に対する接し方に、両親世代が反発し、注文をつけるようになってきます。そうすると、祖父母世代は、孫の安全に気を配るばかりでなく、何を与えてあげるか、叱るべきか、受け止めるべきか、子供夫婦の顔色をうかがいながらの育児を強いられることになるでしょう。
 
 
「孫疲れ」の解消に向けて

本来、祖父母にとって、孫を迎えること、孫の成長を身近で見守ることができること、これは大きな喜びであるはずです。それが「孫疲れ」によって、かえって苦痛となってしまう状況は、祖父母にとっても、両親世代にとっても、また何より、孫たちにとって悲しいことでしょう。

晩婚化自体に歯止めをかけるのは簡単ではありませんが、少なくとも、価値観の相違に基づく葛藤とストレスは、努力次第で軽減する道があるはずです。祖父母世代と両親世代が、共に孫たちの成長、幸福を願う立場で、協力し合っている大切なパートナーであることを忘れてはならないでしょう。

そこにおいては、筆者自身も、妻の両親に子供たちの面倒をみてもらっている立場から、両親に対する感謝の心を持ち、それをできるだけ表現すること、更には、両親を尊敬し、その価値観を尊重する姿勢を大切にしていきたいと思います。

祖父母と両親が育児方針を巡って葛藤したり、喧嘩することは、孫の成長にとって最も避けるべきことではないでしょうか。きっと、小さな孫たちは、何を教えられたかということよりも、祖父母と両親が築く関係性によって、より多くのことを学び、感じ取っているはずです。

また、長期的には、晩婚化、晩産化の傾向に歯止めをかける必要があるでしょう。前半部分で述べたように、両親と同居、近居する場合には、より早い時期で結婚することが、結果的として、経済的にも、キャリア的にも有利であることが多いのです。個人単位での人生設計だけでは見えない晩婚化のリスクを、この「孫疲れ」の問題は提示してくれているように思います。

最後になりますが、育児自体にストレスがあるのは、当然のことです。しかし、ストレス以上の喜びや感動があるからこそ、人間は、子供を産み、育ててきました。その喜びや感動を損なわせるような「孫疲れ」については、その解消に向けて、世代を超えた取り組みが必要となるでしょう。

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Posted by k. ogasawara


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