「白人至上主義」と「アンチ・ファシズム」

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8月12日、米国ヴァージニア州シャーロッツビルで、南北戦争時の南軍の英雄(リー将軍)銅像撤去をめぐり、撤去に反対する極右勢力と、撤去を支持する市民集団(極左勢力を含む)が衝突、極右青年の車の暴走によって一人の女性が犠牲になりました。この事件を受けてトランプ大統領は、車を運転した青年を「人殺し」として非難したものの、衝突事件そのものについては「双方に責任がある」と述べました。さらに、極右の側にも「いい奴もいる」と発言したため「極右集団を擁護するのか」と激しい批判の嵐にさらされました。

もちろん人が殺されているわけですから、トランプ氏の発言は不適切と言われても仕方ありません。しかし、一方で「双方に責任がある」という言葉自体は、必ずしも間違いとは言い切れません。なぜなら、銅像撤去に反対する「極右勢力」も、「極右」に対抗する市民集団に含まれた「極左勢力」も、どちらも社会にとっては有害だからです。

共産主義に起源をもつ「アンチ・ファシズム」

米国では保守(右)とリベラル(左)の文化戦争が激化しており、双方に過激な暴力的集団を生み出しています。したがって、リベラル派の知識人、ハーバード元教授のアラン・ダショーウィッツが指摘したように「保守が極右過激派について非難する義務があるように、リベラルの側も、極左の過激主義者に対して声をあげる義務(1)」があります。

しかし、米国の左傾化した主流メディアの情報しか取り上げない日本では、白人至上主義者など極右集団に対する批判は伝えられても、一方の市民集団に含まれる極左勢力についての批判はほとんど見られません。しかし、時折、反トランプ集会などに登場する黒いマスク集団にみられるように、暴力的な極左集団も、米国社会を分断する大きな原因となっているのです。

例えば、極右に対抗する過激派の代表として「Antifa」=アンチ・ファシズム運動があります(2)。これは、1930年代のヨーロッパに起源をもつ運動で、主に共産主義者や無政府主義者によって開始されました。ファシズムを批判すべきことは当然ですが、彼らのアンチ・ファシズム運動の問題点は、あらゆる政治的権威や伝統的価値、資本主義の体制を、根こそぎ「抑圧、差別」として否定し、直接的行動(暴力)によって破壊活動を行うところにあります。つまり「ファシズム反対」という衣を被ってはいますが、実態は、共産主義の革命運動なのです(ちなみに彼らの運動は、当時の中国における「反日運動」のモデルとなったと言われています)。

彼らは、アメリカでは主に「人種差別」問題を前面に掲げて、白人主導の歴史や文化、社会制度を攻撃してきましたが、近年では、次第に衰退の兆しを見せていました。しかし、オバマ政権下で、リベラル勢力による保守派への一方的な攻撃、批判が続き、その反動として移民などのマイノリティ排除を訴える極右勢力が台頭、その結果、逆の側の「Antifa」ムーブメントも息を吹き返してきたのです。

「反トランプ」で存在感を増す極左集団

とりわけ、リベラル勢力に不人気なトランプ政権の登場は、彼らにとっては絶好のチャンスとなっています。彼らは、反トランプ運動の高まりに乗じてリベラルな市民勢力への浸透を図るとともに、各地で破壊活動を繰り広げています。先日もボルチモアでコロンブスの記念碑が毀損される事件が起きたばかりです(2)。彼らの歴史観の中では、新大陸開拓の契機を築いたコロンブスは、憎むべき植民地主義と人種差別を米州大陸に持ち込んだ「悪の元凶」なのです。

今回の南軍の英雄リー将軍の銅像撤去運動も、そうした幅広い米国歴史否定運動の一部です。もちろん、奴隷制度などの人種差別は米国歴史最大の恥部であり、大きく反省されるべきものです。しかし、その一方で、建国以来、キリスト教に由来する「自由」と「民主主義」の旗手として、更には資本主義による経済、社会発展の牽引役として、米国が人類史に貢献してきた歴史も過少評価されるべきではありません。

人種差別の歴史に蓋をして、米国歴史を美化することも不適切ですが、だからといって、時代的制約の中で、より自由で公正な社会を目指し、努力を積み重ねてきた人々の歴史を、一方的に糾弾し破壊することも、あまりにも独善的な行為ではないでしょうか。

そうした運動が、白人、キリスト教徒たちの危機感をあおり、過激な行動に走る人々を生み出す一因となっていることも広く認識されるべきです。攻撃され、疎外されている人々が過激化することは、よく知られた事実です。そして実際に「米国社会の主流でキリスト教が排除、迫害されている」と感じるキリスト教徒は年々増加しており、福音派では約8割に達しています。

大半のキリスト教徒は穏健な考え方を持っており、福音派最大の南部バプテスト協議会ですら、人種差別の歴史を反省し、白人至上主義に反対する声明を公式的に採択しているほどです(3)。しかし、年々人口比率を低下させる白人、キリスト教徒の文化消滅に対する危機感から、より過激な立場を志向する集団が影響力を拡大しつつあります。

社会運動を歪める「不満」や「敵意」

極右、極左を問わず、こうした過激な勢力の問題点は、「より良い社会をつくる」という動機が、「意見の異なる相手への敵意と暴力」にすりかわっているところにあります。ジャーナリストのベン・シャピロは、これらの勢力を、アメリカが抱える「癌(がん)」と呼びました(5)。これは、私たちが何らかの社会運動を行う際に、常に心に留めておくべき課題でもあります。

ちなみに今回の騒動に絡んで、過激な白人至上主義の運動から抜けた人物の手記が発表されていました(6)。彼が過激派から抜けたきっかけは、息子とのショッピングだったといいます。スーパーで黒人とすれ違ったとき、当時、幼稚園児だった小さな息子が、ひどい差別用語を口にしたというのです。その子供の言葉を聞いて、彼は大きなショックを受けました。そして、はじめて、自らが行っている活動の醜さと、それが知らず知らず子供に影響を与えていることの恐ろしさに気付いたのです。

人の心には、物事の本質的な善悪を見抜く良心が存在します。その普遍的な良心基準に照らせば、互いをののしり合う「極右」も「極左」も、あまりにも極端で、過激で、傲慢で、偏狭だということは明らかです。そうした運動は何も生み出すことはなく、混乱と分裂を助長するだけでしょう。

あくまでも社会運動は、社会や国、そこに住むすべての人々への敬意や愛情に基づいて行うべきものであり、自らのうちにある、自己中心的な不満や敵意をばらまくためのものではありません。

(1)Nick Givas.“Harvard Professor Calls Out Antifa for Trying to ‘Tear Down America’” The Daily Signal. Aug 22, 2017

(2)THOMAS FULLER, ALAN FEUER and SERGE F. KOVALESKI. “‘Antifa’ Grows as Left-Wing Faction Set to, Literally, Fight the Far Right”. The New York Times. Aug 17, 2017

(3)Fern Shen. “Columbus statue in Baltimore vandalized”. Baltimore Brew. Aug 21, 2017

(4)Adelle M. Banks. “In dramatic turnabout Southern Baptists condemn white supremacy”. CRUX. Jun 18, 2017

(5)Ben Shapiro. “Antifa and the Alt-Right, Growing in Opposition to One Another”. National Review. Aug 15, 2017.

(6)Timothy Zaal. “I Used To Be a Neo-Nazi. Charlottesville Terrifies Me.”. Politico Magazine. August 18, 2017

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Posted by k. ogasawara


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