米最高裁スカリア判事死去
2016年2月13日、米国最高裁のアントニン・スカリア判事が79歳で亡くなりました。ワシントンの大聖堂で行われた告別ミサには、同僚判事のみならず、テッド・クルーズやディック・チェイニー元副大統領、ニュート・ギングリッチ元下院議長など、共和党の大物に加え、バイデン副大統領など民主党の政治家も多く参加しました。
参席者の顔ぶれを見てもわかる通り、彼の死は、司法分野のみならず米国の政治や社会の動向にとって非常に大きな意味を持ちます。二大政党制が定着して長い歴史を持つ米国では、様々な社会問題についても保守とリベラルの争点が明確です。従って、司法の場においても判事がどちらの価値観を持つかによって判決がはっきりと別れるのです。すなわち、その判事が共和党系なのか、民主党系なのか、その政治的な色分けが米国社会の進む方向を大きく変えてしまうということです。特に最高裁の判事は大統領による任命ですから、どちらの政権時に任命された判事が多いかが、政治的にも大きな意味を持つのです。
例えば、今回の「同性婚合憲判決」を見ても、最高裁判事の判断は真っ二つに分かれました。同性婚を支持した5人のうち4人がクリントン、オバマの民主党政権で任命されたのに対して、反対意見を書いた4人はレーガン、ブッシュ親子政権で任命された保守派の判事でした。残る一人はレーガン政権時に任命されたケネディ判事ですが、彼は中道の立場であり、今回はリベラル側と組んで同性婚容認の道を開く立役者となりました。
同性婚については、いまだ米国の世論は大きく割れたままです。それが結果的に一人の判事の意見によって決着がついてしまったのですが、それだけ最高裁判事の持つ力は大きいのです。
スカリア判事の死後、早速、民主、共和両党の駆け引きが始まりました。オバマ大統領としては、当然、自らの在任時にもう一人リベラルな判事を任命し、最高裁における優位を確保したいと考えています。一方、共和党は「新大統領の選出を待って新しい判事を任命すべきだ」との立場を取り、多数派を占める議会で任命阻止を図る構えです。大統領選の行方と相まって、この1年間は米国の歴史を大きく左右する重要な期間だと言えるでしょう。
考えてみれば、わが国においても最高裁判所の裁判官が持つ権威は、司法権のトップとして絶大なものがあります。ここ二、三年に限っても、婚外子の相続問題や、選択的夫婦別氏等、国民生活や社会のあり方に関わる重要な判断がいくつか下されました。最高裁の裁判官については国民審査があり、原則的には国民の投票で罷免もできるようになっています。裁判官の持つ思想的傾向や資質について、本来は、もっと関心を持つべきなのかもしれません。
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