中国の人権弾圧に高まる非難

時事問題中国, 人権

3月10日、国連人権理事会の開催前に、米国、日本など12か国(※)が共同で中国の人権状況を憂慮する声明を発表しました。習近平政権になって以降、中国における思想、宗教面の引き締めは目に見えて厳しくなっていたため、遅きに失した感があるのは確かです。しかし、その異例の出来事に象徴されるように、今年に入って、中国を見つめる国際社会の目は大きく変化しています。

(※)米国、日本、オーストラリア、英国、ドイツ、オランダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アイルランド、アイスランドの12か国。
 
 
「経済的な期待」と「人権問題への懸念」が逆転

昨年のちょうど今頃はAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立に西欧諸国が雪崩をうって参加するなど、米国に替わる未来の覇権国としてその影響力は絶頂に達していました。英国などは、習近平主席の訪問時に、女王陛下まで駆り出して、卑屈なまでの歓待ぶりを見せたほどです(チャールズ皇太子は抵抗しましたが)。当然、その背景には中国経済への期待があったのですが、昨年後半以降、その肝心の経済が目に見えて失速してきました。

それに加えて、香港の反体制派への弾圧に絡み、タイでスウェーデン国籍の人物が失踪し、香港では英国籍の書店関係者が中国当局に拘束されるという事件が起きました。これまでは、貿易や投資における期待が、中国内の人権状況への懸念を上回ってきましたが、その状況が完全に逆転したのです。

天秤

冒頭に述べた共同声明の前にも、今年1月には、中国で施行された「反テロ法」、審議中の「サイバーセキュリティ法」「海外NGO管理法」について、米国、カナダ、ドイツ、日本、EUの各大使が連名で懸念を伝達するという出来事もありました。更に、今月に入ってEUは南シナ海の緊張についてもコメントを発しています。中国を名指しこそしてはいませんが、議論ある島々へのミサイルや軍隊の配備への懸念を示しており、中国を念頭においたものであるのは確かです。これら一連の動きをワシントンポストは「劇的な外交的転換」と呼んでいます。

Simon Denyer. “Is China heading in the wrong direction? For once, the West calls Beijing out.“ The Washington Post(online). Mar.23, 2016
 
 
中国の反応

こうした動きに対して、中国側の反応は硬軟混ざりっています。まず目立つのは激しい反発です。ジュネーブでの国連人権理事会においては、傅聡(Fu Cong)大使が、「人権問題を政治化し、他国を名指しで侮辱する」ばかりでなく、「国連の承認を得ることなく他国に武力行使し、途上国の平和、安定、調和を破壊し、テロが蔓延する温床を作り出している(要約)」として西側諸国を非難しました。また、国内では記者会見を開き、政府系機関の人権研究者に「国内の人種差別など、米国こそ深刻な人権問題を抱えている」とアピールさせたりしています。

Ben Blanchard. “China steps up war of words with United States over human rights”. REUTERS(online). Mon Mar 14, 2016

その一方で、英字新聞の『チャイナデイリー』は「改革開放路線の継続」を唱えると共に、国際的な懸念に「耳を傾け、対応」すべきだと主張しました。実際に、NGO法の内容に関しては、中国国内からの懸念の増大と党内議論の停滞を受けて、思うようにコンセンサスがつくられていないようです。

内政外交共に強硬姿勢が目立つ中国ですが、これ以上、国際的な非難を浴びることは、貿易や投資の面においても大きなマイナスとなることは明らかです。もちろん、中国の人権状況がすぐに改善することはないでしょうが、国際社会で一致した声を挙げ続けることが重要でしょう。

時事問題中国, 人権

Posted by k. ogasawara


PAGE TOP