児童虐待通告件数が過去最悪に
警察庁の発表によると、2015年1月~12月の1年間に、警察が虐待として児童相談所に通告した子供(18歳未満)の人数は37020人に上り、過去最悪を記録したようです。
これは、やはり過去最悪を記録していた2014年の28923人と比べても28%の増加となっており、2004年に統計を取り始めて以降、11年連続の増加となりました。毎日新聞などが報じています。
「<虐待通告>18歳未満、過去最悪3万7020人」毎日新聞(online)mar.24, 2016 JST11:10
(警察庁資料などをもとに筆者作成)
児童虐待急増の原因は何か?
近年、児童虐待が急増している背景として、養育水準の向上や、虐待に関わる法整備、社会的関心の高まりなどが挙げられることがあります。つまり、これまでは「虐待」と見なされていなかったレベルの「攻撃、放置」が問題行為として発見されやすくなっただけであり、虐待の実数が増えたわけではないという主張です。むしろ昔の方が、嬰児殺しも多く「折檻」という名の暴力が日常的に振るわれていたという指摘もあります。
確かに、そうした側面もあるかもしれませんが、近年の増加のスピードは、そうした意識の変化だけでは説明がつきません。また、実際の増減は別としても、警察から児童相談所に通告されるほど深刻な虐待が、1年に4万件近く起こっているという事実は軽視されるべきではありません。
ちなみに虐待が増える環境的なリスクは事実として増加しています。まず、貧困と虐待の間に相関関係があることは広く知られていますが、わが国における「子供の貧困」は明らかな増加傾向にあり、16.3%という高率に達しています。一人親家庭で育つ子供に限ると、その割合は50%を超えています。
(厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査の概況」にもとづき筆者作成)
また、家族構成によっても虐待の発生率が異なることが知られており、血のつながった両親に育てられる場合と比べ、ひとり親家庭、事実婚の家庭、親のいない家庭、再婚家庭などでは、虐待の発生率が数倍に跳ね上がります。更に、一人親がパートナーと同棲している場合には、およそ8倍~10倍の高率となります(『米国NIS-4』より)。
現在、日本でひとり親家庭の子供は急増していますが、これが虐待増加の一因となっていることは否定できません。
虐待の悲劇をなくすために
虐待は、虐待を受けた子供たちの脳の発達に深刻なダメージをもたらすともいわれており、その予後の悪さも指摘されています。虐待が世代間連鎖することも知られており、被虐待児が、やがて虐待の加害者となる悲劇も少なくないのです。
被虐待児へのケアはもちろん、虐待そのものをなくすための努力が急務です。虐待を生み出すようなリスクを低減させる上で、様々な事情を抱えた家族へのサポートも必要ですが、そもそも両親が揃った状態で育児ができるよう、離婚を減らす努力も必要なのではないでしょうか?
何故なら、一人親家庭になる要因には死別や、未婚での出産などもありますが、現在、その8割を占めるのは離婚なのです。3組に1組が離婚し、そのうち2割しか養育費を受け取れていないという現状が、虐待へと追い込まれる母親や子供たちを多く生み出している事実から目を背けるべきではありません。
その意味で、家族の多様化を肯定的に捉えるような言説があふれる一方、一夫一婦の結婚を守り抜くことの価値が軽視される風潮には疑問を感じます。
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