若者の居住形態の変化

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米国の調査ですが、若い成人の居住形態で『配偶者あるいはパートナーと同居』(31.6%)する割合を超えて、『親と同居』(32.1%)する割合が最も多くなったようです。ただし、『親と同居』する人の割合自体は、1940年頃も今と同様に3割を超えていました(35%)。むしろ、今回の調査での顕著な特徴は、『配偶者あるいはパートナーと同居』している割合の著しい低下でしょう(1960年62%→2014年31.6%)。

※『若者の居住形態の変化(米国)』

米国若者の居住形態の変化
Richard Fry. “For First Time in Modern Era, Living With Parents Edges Out Other Living Arrangements for 18- to 34-Year-Olds”. Pew Research Center. May 24, 2016
 
 
親との同居が増えた理由

ちなみにピュー研究所では『親との同居』が増えた要因として二点を挙げています。一つ目は、やはり、「結婚の遅延」、または「結婚しない人の増加」です。初婚年齢は上昇し、若者の1/4は生涯結婚しないのではないか、と言われています。

そして、もう一つが(結婚の遅延とも関係しますが)若者の雇用状況と賃金の問題だとされています。ただ、ここで興味深いことは、賃金の低下を含む雇用状況の悪化が『親との同居』の増加に結び付いているのは、主に男性だと言うことです。女性に関しては、1960年代以降、雇用状況、賃金水準とも著しく改善しており、親から自立できる余力は強まっているはずです。従って、女性における『親との同居』が増加している原因は、『結婚の遅延』(男性の収入の低下と関係)だと推測されています。

結論として、若者の『親との同居』が最も多くなった理由をまとめると、以下のようになります。

① 結婚の遅延、結婚しない人の増加
② 雇用状況の悪化と賃金レベルの低下(特に男性)
 
 
「家族の多様化」は社会の不安定化を招く

この調査結果をどう評価すべきか、ということですが、まず、20~30代で結婚し安定した家庭を築く成人が継続して減少することは、社会の不安定化を招くでしょう。

結婚せず、親元に同居する若者の増加は、数十年後、そのまま、同居する人を持たない孤独な老後を過ごす人の増加に直結します。これは、孤立した老人の「疎外感、孤立感」といったメンタルの問題のみならず、経済的側面でも大きな困難を抱えることが予想され、社会の不安定要因となることは否めません。

また『親との同居』ばかりでなく、一人暮らし、一人親家庭、親族以外との同居など、特殊な居住形態が増えていることも一つのリスクです。「家族の多様化」と言えば聞こえはいいのですが『夫婦と子供』という形態と比べ、これらの多様な居住形態が、安定性と持続性において劣ることは各種統計からも明らかです。

今回、紹介したのは米国のデータですが、日本も同じような状況を抱えています。非婚化、晩婚化を食い止める『結婚文化の再生』は、太平洋の両岸において共通する課題のようです。
 
 
若い男性の活躍支援も必要

では、非婚化、晩婚化を解決するためには、何が必要なのでしょうか。そもそも、非婚化、晩婚化の原因自体が単純ではないため解決策も単純ではあり得ないのですが、この調査結果から学べることを、一つ提示しておきたいと思います。

それは、現在強調されている「女性の活躍」政策とあわせ、「若年男性の活躍」支援が必要ではないかということです。ことわっておきますが、筆者自身、社会における女性の存在感を高めることには大賛成であり、実際に、妻もフルタイムで働いています。しかし、一方で「過剰」にならないレベルの「男女の性別役割分担」は必要だと思います。現実に、婚姻率の衰退に対して、より直接的な影響があるのは女性よりも男性の雇用状況の悪化、賃金水準の低下なのです。

男女の役割に、ある程度の差異が避けられないものであることは、男女平等に向けた意識改革や取り組みが進んでいる米国においても、いまだに、家計収入に占める夫と妻の比率が「7:3」で安定していることからも分かります。実際に、いくら平等を唱えても、生理的な差異は確実に存在し、妊娠、出産を男性が担当することは不可能です。また、乳幼児期のケアに関しても、母親だけに押し付けるのは理不尽だという意見がある一方で、小児科医などからは脳の機能上の違いや、授乳などの観点から「可能ならば母親がケアできることが望ましい」との見解が出されたりします。

従って、ある一定の期間、女性が「家事、育児」を担う割合が高くなり、男性の収入にかかる比重が大きくなることは、一般論として避けられないことだと言えるでしょう。そのことは、女性が結婚相手の男性に求める収入が、その逆と比較して高いことにも表れています。しかし、これ自体は決して男女差別ではありません。むしろ問題は、女性がある時期、主導的に担う「家事、育児」の価値が低く見なされており、その後のキャリア・パスにマイナスの影響があることです。

いずれにせよ、婚姻率を高めるには、男性側の、家計を担うだけの収入を得る力、つまり「稼ぐ」能力を高めることが必要だと思われます。
 
 
家族を扶養する能力を持つことが男性を成熟させる

このことは、男性のメンタルとの関わりでも重要でしょう。多くの文化において、結婚と扶養者精神(Providership)を持つことは、男性の生活に、有益な「構造と規律」をもたらしたとされています。逆に、収入を得る仕事を失うなど、良き扶養者になる道が閉ざされると、しばしば、その「男らしさ」がゆがんだ形で発揮され、不貞行為やアルコール・薬物の乱用、暴力のような振舞いにつながります。

「男らしさ」「女らしさ」を差別的に強調することは避けるべきですが、少なくとも、男性の中には「男らしくありたい」「頼られる存在でありたい」という潜在的な願望があるようです。そして、その願望こそが、責任ある夫、父親として男性が成熟することを助けているのです。

現在、女性的で受動的な男性が増えていると言われます。もし、それが単に「優しくなった」という次元でなく、「生活力」や「家族を養う能力」の低下を意味するとすれば、人類という種の存続にも関わる深刻な事態ではないでしょうか。男の子を「男らしく」育てることは、将来、配偶者となるべき女性の側にとっても非常に価値あることだと思われます。

若い男性にふさわしい雇用を提供することはもちろん「家族を守り、養う責任」を自覚させる、良い意味での「男らしさ」教育も必要なのかもしれません。特に、離婚後の妻にきちんと養育費を支払う男性が2割しかいないこの国にあっては、なおさら…。

<参考記事>
W. Bradford Wilcox. “It’s Not Just The Economy Devastating Working-Class Families”. The Federalist. Dec 12, 2014

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Posted by k. ogasawara


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