家族の絆を強める「祈り」

エッセイ宗教, 家庭, 家族, 結婚

熊本で大きな地震が起こり、たくさんの方が犠牲となりました。また、余震が続く中で、不安のうちに避難生活を送る人たちも多くいらっしゃいます。日本中で支援の輪が広がっていますが、できることが限られる中で、せめてもと、被災地の方々のための祈りを捧げる方もいらっしゃるでしょう。

私たちは、こうした災害の時ばかりでなく、身近な人々の健康や幸福を祈ったり、好きなスポーツチームの勝利や選手の活躍を祈ったりします。宗教性が薄いと言われる日本人ですが、日常の中には多くの「祈り」があります。

ところで、「祈り」にはどんな効果があるのでしょうか?今日は、少し目にとまった記事を取り上げたいと思います。
 
 
家族で祈ることは、共に良質な時間を過ごすこと

カトリック協会のシニア・フェロー、アシュリー・マクガイア(Ashley McGuire)が、結婚、家庭生活と祈りについて書いています。

Ashley McGuire. “Does the Family That Prays Together Really Stay Together?”. The blog of the Institute for Family Studies. Apr 20, 2016
 
 
上記記事の中で彼女が指摘しているように、非宗教的、医学的な見地から見ても、祈りにはストレスを軽減し、自己認識を改善し、よりよいコミュニケーション、そして、他者へのより共感的で寛容な態度を育むなどの効果があるようです。もし、そうであるとするなら、家族で一緒に祈る時間を持つことは、その人間関係に肯定的な効果をもたらすはずです。

マクガイアは言います。「まず、第一に、家族で持つ祈りの時間は、テレビやスマートフォンの前で過ごすよりも深いレベルでコミュニケーションを取る時間であり、共に過ごす良質な時間でもあります」。実際に、よくお祈りする家庭においては、子供たちと両親の間に、祈らない家庭よりも良好な関係が見られるといいます。
 
 
仲睦まじい両親はよく祈っている

具体的な研究例として、マクガイアは、ノースカロライナ大学教授(当時:現在ノートルダム大学教授)クリスチャン・スミスとフィリップ・キムによる「若者と宗教全国調査」の研究レポートを紹介しています(『思春期初期の子供を持つ家族における家族の宗教的関与と両親の関係の質』)。

そのレポートでは、12歳~14歳の子供たちから見た両親同士の関係を、その家庭の宗教生活への関与の度合いとの相関関係で分析しています。その結果、礼拝に参加したり、祈る頻度が多いほど、夫婦同士でお互いを励ましたり、愛を表現したりする割合が高く、お互いを批判したり、罵ったりする割合が低いことが明らかになっています。以下、いくつかの項目について、グラフにしてみました。

Q.お母さんは、お父さんがお父さんにとって大事なことをするのを励ましたり助けたりしますか?
励ますか?

Q,お母さんは、お父さんに優しさや愛情を表現しますか?
愛情を表現

Q.お父さんは、お母さんやお母さんの考えを馬鹿にしたり、批判したりしますか?
お父さんはお母さんを批判

また、同じスミス教授によるもう一つのレポート(『家族の宗教的関与と、思春期初期の子供にとっての家族関係の質』)においても、思春期初期の子供たちと両親の関係についての分析が示され、家族としての宗教的な関与の度合いが高いほど「親のようになりたい」と感じ、「親からの助けを得ている」と感じる割合が高いという結果が出ています。
 
Q.お父さんのようになりたいですか?
お父さんのようになりたいですか?
 
更に、フロリダ大学のチームが行った研究でも、恋人など親しい人のために祈り合うことが、お互いの信頼や一体感を深めることが明らかになりました。
 
 
「祈り」は和解を導く調停ツール

これらの研究成果を踏まえて、マクガイアは「一緒に祈ることは、カップルの間のより寛容な関係を導く強力な調停ツール」であると考えます。そして、プリガムヤング大学のマーク・バトラー教授の次のような言葉を紹介しました。「人々が(彼らの関係における緊張について)祈る時、彼らは、問題における彼らの側(の責任)を省みて、自ら違いを作るために何ができるかを理解し、柔軟となれるよう助けを得ます。これらすべてのことが、葛藤の解消を助けるのです」。

夫婦や親子など家族の間の関係は、一緒に過ごす時間が長く、表面的に繕うことが難しいために、すれ違いや葛藤も生まれやすいでしょう。そこにおいて、円滑なコミュニケーションを行うためには、お互いを尊重し、相手の願いや事情に理解を示すと共に、自らの感情や欲求を適度に抑制することが不可欠です。

そういう意味では、精神的な修練や成長が欠かせないという意味で、家庭生活と宗教生活には強い相似の関係があるのかもしれません。よく祈る人、宗教的な実践を熱心に行う人が、良好な夫婦関係や親子関係を築いているという調査結果は、そのことを示唆しているでしょう。

この20年ほど、日本では宗教の衰退が著しいと言われています。そのことと、DV、離婚、虐待などの家族の病の増加には何らかの相関関係があるのでしょうか。いずれにせよ、忙しい現代社会の中で、自らを振り返り、身近な人々に思いをはせる、そうした時間が必要であることは間違いないと思います。

参考記事)

Clay Routledge Ph.D. “5 Scientifically Supported Benefits of Prayer”. Psychology Today. Jun 23, 2014

Christian Smith & Philip Kim. “Family Religious Involvement and the Quality of Parental Relationships for Families with Early Adolescents”. National Study of Youth & Religion. 2003

Christian Smith & Philip Kim. “Family Religious Involvement and the Quality of Family Relationships for Early Adolescents ”. National Study of Youth & Religion. 2003

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Posted by k. ogasawara


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