「三世代同居」が児童虐待を防ぐ?

時事問題三世代, 子供, 家庭, 家族, 祖父母, 虐待

先日の児童虐待の記事に掲載した「都道府県別相談対応件数」の地図を作成しながら「三世代同居率の地図と似ているな」と感じました。そこで、実際に比較してみると、やはり三世代同居率が高い県ほど、虐待の相談対応件数が少ない傾向があるようです。

下のグラフは、三世代同居率が高い県から順に並べて、未成年人口(2014年)1000人当たりの児童虐待相談対応件数(2015年)を示したものです。赤色は全国平均(約4.6件)よりも高い都道府県を、青色は3件以下と全国平均よりも顕著に低い県を表しています。
 
三世代同居と児童虐待(都道府県別)
(総務省統計などをもとに筆者作成) 
 
 
この表を一見するだけで、両者の相関関係は見て取れますが、次に上位10県と下位10都道府県だけを抽出して比較してみましょう。
 
三世代同居と児童虐待(上位下位10県)
(総務省統計などをもとに筆者作成)
  
 
如何でしょうか。三世代同居率が高い10県のうち9件までもが青色です。それに対して、三世代同居率が低い10都道府県のうち6件までもが赤色です。例外的に、鹿児島県と沖縄県が虐待相談対応件数が低くなっていますが、この2県については、三世代同居率が低い理由が、過疎化による若者の流出であるなど、他の都道府県とは異なっていると思われます。

参考までに、相関係数を計算してみると、-0.48となり、中程度の相関関係が認められます。以下に散布図も示しておきましょう。
 
%e4%b8%89%e4%b8%96%e4%bb%a3%e5%90%8c%e5%b1%85%e3%81%a8%e8%99%90%e5%be%85%ef%bc%88%e6%95%a3%e5%b8%83%e5%9b%b3%ef%bc%89
(総務省統計などをもとに筆者作成)
 
他に、児童虐待と関連すると思われる指数の一つとして「子育て家庭の相対的貧困率」もありますが、こちらには「三世代同居率」ほど顕著な相関関係は現れません。
 
子育て家庭の相対的貧困率と児童虐待
(総務省統計などをもとに筆者作成) 

 
三世代同居率が高い県で、なぜ虐待が少ないのか?
 
さて、三世代同居率が高い県で、虐待の対応件数が低くなる理由は何でしょうか?

まず、祖父母が同居することで、虐待の発生要因の一つである「孤立した子育て」を回避することができます。また、三世代同居率が高いということは、地域共同体の絆も世代を継いで保たれやすくなっているでしょう。それだけ、子育て世帯を見守り、支援する、より多くの家族、親族、地域の人たちがいることになり、虐待のリスクを低減することになるのではないでしょうか。

逆に、首都圏や関西圏などの都市部では、子育て世帯の孤立化が進んでいると考えられます。それは、当然、虐待のリスクを高めることになるでしょう。

もう一点、三世代同居は広い住宅を必要とするため、居住環境と強い相関関係を持っています。従って、三世代同居率が低い県は、おしなべて一住宅当たりの敷地面積も狭いため、窮屈な子育てを余儀なくされ、養育者の心理的ストレスを高めていると思われます。具体的に言えば、子供が泣いたり、騒いだりした際に、子供だけに集中できず、アパートの上下や隣の部屋からのクレームを気にしなければなりません。養育者がストレスにさらされると虐待のリスクが高まるため「子育て家庭の居住環境の改善」は急務だと思われます。

参考までに、一住宅当たりの敷地面積(2013)と児童虐待相談対応件数を組み合わせたグラフを掲載しておきます。特に、上位10県と下位10県は三世代同居率とほぼ重なっており、「広い家」と「三世代が揃う大家族」が、子育てにとって良い環境を提供することを示唆しています。
 
敷地面積と児童虐待(都道府県別)
(総務省統計などをもとに筆者作成)
 
敷地面積と児童虐待(上位下位10県)
(総務省統計などをもとに筆者作成)
 
 
大家族の価値を考慮に入れた政策への転換を
 
首都圏ではニュータウンの高齢化が問題となっていますが、これも、そもそも間取りの設計が核家族を前提としており、子供たちが結婚した時に別居せざるを得ないことが最大の要因です。これも都市化の弊害の一つですが、住宅政策、経済政策など、家族の継承や子供の視点を軽視した日本社会の在り方が、今日の児童虐待の深刻な状況に影響していると思われます。

社会福祉政策を考える際に「世帯単位から個人単位へ」移行する社会の趨勢に合わせるべきだという意見がありますが、これ以上、共同体が壊れ、核家族化、一人親家庭化が加速することは、確実に子育て環境を悪化させるという認識を持つ必要があるでしょう。

フェミニストの中でも過激な方々は、女性の自立や解放という文脈で「家族よりも個人」を重視すべきだと主張します。しかし、家族や共同体の解体によって最も厳しい立場に追い込まれているのは、皮肉なことに子供たちと、その母親です。

これまでの伝統的な家族が、男性優位の側面を持っていたことは事実でしょう。しかし、そうした問題の解決策は、家族の解体に求められるべきではなく、伝統的な大家族が持つ良い面を守りながら、男女が共に尊重し、協力し合う、家族の再構築に向かう努力の中に見出されるべきです。

個人化が進む地域での児童虐待の突出した数字は、そのことを示唆していると思います。
 
 
 
(データ参照元)
● 都道府県別未成年人口(2014) 「日本の統計2016」総務省統計局  
● 2015年度児童虐待相談対応件数(2015) 「平成27年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>」厚生労働省報道発表資料. 厚生労働省. 2016年8月4日 
● 三世代同居率(三世代同居人口/一般世帯人口 2010) 「平成22年国勢調査 人口等基本集計全国結果 第10表」. 総務省統計局 政府統計の総合窓口(e-Stat). 
● 都道府県別子育て世帯の相対的貧困率  「子育て世帯の相対的貧困率」. 『都道府県別統計とランキングで見る県民性』. 2015年11月19日 
● 1住宅あたり敷地面積(2013) 「社会生活統計指標-都道府県の指標-2016 Ⅰ社会生活統計指標 表H居住」. 総務省統計局 政府統計の総合窓口(e-Stat). 2016.2.19

時事問題三世代, 子供, 家庭, 家族, 祖父母, 虐待

Posted by k. ogasawara


PAGE TOP