少子高齢化がもたらす、家族、希望の喪失
少子化の進行、更には離婚の増加がもたらす最も深刻な事態は、家族を失って孤立する人が増えて行くことです。孤独死の問題ばかりでなく、寂しさゆえに万引きを繰り返すなど高齢者の犯罪も激増しています。「人が一人でいるのは良くない」という有名な聖書の言葉がありますが、孤立化する社会に、どこかで歯止めをかける必要がありそうです。
今日のNHKスペシャルは「新宿”人情”保健室 老いの日々によりそって」。
高齢化する日本社会の縮図と言われる新宿区の団地。かつて、ニューファミリーと言われ入居した世代が、皆、お年寄りになり、ほとんどが、夫婦二人暮らしか、独り暮らし。抱える悩みには、お金が絡んでいたり、家族が絡んでいたり…。その一方で老いと付き合い、病と付き合っていかなければいけない。認知症になりながらも独りで暮らさなければならない人もいる。
そんな中で病院などではなく「もっと気軽に、なんでも相談できる場所を」と立ち上げられた「暮らしの保健室」。
そこに訪れるお年寄りたちの姿や抱える事情に心が重くなります。もちろん、心温まる場面もあり、老いと寄り添うスタッフの方々の思いやりあふれた姿に目頭があつくなったりもしました。やはり、人を救うことが出来るのは、愛を持って寄り添う「人」なのだな、と感じさせられました。
一方で、職場にもほど近い団地に、こんなさびしい心で暮らしているご老人たちがいるのか、と思うと、どうしても心はふさがります。
「一人でいると悪い事ばかり考えて、辛くなる」。ナレーションが流れる。
「私は何のために生きているのかしら。この先何のよいことがあるのか」と言う83歳のおばあちゃん。
ふと、自分自身の祖父母や、父母、また、今一緒に暮らしている義父母のことなども重ね合わせてみます。やはり、社会の単位が個人であるというのは、根本的に間違っている、と改めて思いました。人にとって、喜びとは、幸せとは、やはり家族との心からの交わりではないでしょうか。
「この先何のよいことがあるのか」…人が個人で生きるなら、老いや病が訪れてくる中で、希望はだんだんとしぼんでいきます。しかし、家族で生きるなら、子供や孫たちの未来があり、そこから生まれる楽しみや喜びがあります。
孤独な高齢者が増えている
実際に、日本の高齢者が置かれている状況はどうでしょうか?次のようなデータ(1)があります。65歳以上の高齢者が、誰と一緒に暮らしているかの調査資料です。
(1)「グラフでみる世帯の状況 国民生活基礎調査(平成22年)の結果から」H24、厚生労働省大臣官房統計情報部(2014年9月7日取得)
あらためて驚きましたが、私自身が子供の頃(1980年当時)は、子供夫婦と同居する(三世代同居も多く含まれるだろう)高齢者が半数を超えていたのに、現在では、2割を切っています(17.5%)。替わりに、独り暮らしと夫婦のみの世帯があわせて過半数(54.1%)になりました。
もちろん、一方では子供との近居が増えているという統計もあるので、一概には言えませんが、昔に比べて孤独なお年寄りが増えているのは確実です。
そこに相関関係があると思われるのは、高齢者の犯罪の増加です。大津保護観察所所長の染田恵氏は「ここ20年間で高齢者の人口は2倍強になったが、高齢犯罪者は6、7倍に増えた」と語っており、その原因として「とくに一人暮らしの女性で「疎外感・被差別感」が動機として多くみられる」と指摘しました(2)。実際に、東京都、神奈川県での万引き犯の摘発人数は、平成24年に少年(19歳以下)を高齢者(65歳以上)が上回っています。
(2)加藤園子「万引きに走る高齢者たち(4)」MSN産経ニュース、2013年10月14日(2014年4月17日取得)
家族を失った社会はどこへ行くのか
少子化や非婚化の最大の問題点は「家族」を失う人たちが大量に増えていくことです。それをヘルパーやボランティアと言う「家族の擬制」で一時的、部分的に補うことはできても、本質的な寂しさを埋めることはできないでしょう。若者たちは結婚しない理由として「一人暮らしの自由さや気楽さを失いたくない」と言うそうです。「本当にそれでいいのか」と問いかけなければならない時に来ていると改めて思わされました。
個人単位の社会になったスウェーデンでは、お墓すら共同墓地となり、公的管理に任せる代わり、家族でも自分自身の親や配偶者が墓地の中のどこに葬られているのかを知ることができません。それは、率直な感覚として、非人間的なことに感じられてしまいます。
「ちょっとした支えがあるだけで人は前を向くことができる。不安があっても笑っていられます」。番組の最後に流れたナレーションですが、せっかくの問題提起なのに感傷的なコメントで締めることには疑問を感じました。
壊れそうな社会の中で奮闘されるスタッフの方々の姿が、投げかけてくる問いを曖昧にすべきではありません。
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