香港問題と中国の未来

時事問題キリスト教, 中国, 民主主義

香港での学生と政府との対話は延期となったようです。今回の一連の騒動は、行政長官選挙の候補者選定を巡る対立が直接のきっかけでしたが、当然、その背景としては、もっと根深いものがあります。17年前の1997年7月1日、香港は「50年間は一国二制度を維持する」との約束で英国から返還されました。ただし、その約束を反故にされるのではないかと言う危機感は、当初から、香港市民の中に根強くありました。
 
 
ところで10月3日付『THE WALL STREET JOURNAL』(1)によると、この民主化運動の指導者の過半数はキリスト教徒だそうです。そうなると、これは単に香港だけの問題にとどまらず、中国国内における最近のキリスト教弾圧政策とも絡んでくるかもしれません。習近平政権が、信教の自由や民主主義についてどんなスタンスを取るのか、国家主席就任から1年余りしかたっていない段階で断言するべきではありませんが、思想的な締め付けが進んでいることは確かです。

他の何人かの専門家と同様に、宗教学者のピーター・バーガーは中国の今後を次のように予測します(2)。

これまで、中国政権の正当性は経済発展によって担保されてきた。しかし、いまやその勢いは鈍化の兆しを見せている。その時、共産党政権が新たな正当性の根拠として持ち出すのは「国家主義」だろう。「国家主義」は具体的な政策としては、国内では少数民族や、宗教、思想の統制、弾圧、対外的には拡張政策となって現れる。「国内にはより抑圧的で、外交においてより積極的な中国というのは、キリスト教や米国にとって悪い知らせだ」(要約)

もちろん、これは日本にとっても「悪い知らせ」です。

一方で、中国本土における宗教の復興運動は勢いを保っています。これを抑え込むことは、いかに百戦錬磨の中国共産党といえども至難の業に違いありません。イスラムやチベット仏教ばかりでなく、地下教会を含むキリスト教の伸長も共産党にとっては大きな脅威です。

そういった現状に対する焦りが、習近平をして、思想・宗教の引き締め政策に向かわせていると思われますが、そのような政策が成功したためしはありません。「中国は、グラスノスチとペレストロイカによる『ソ連の過ち』を繰り返さない(…つまり、あくまでも一党独裁体制に固執する)」とバーガーは指摘していますが、当時のゴルバチョフにとって、それ以外の現実的な選択肢がなかったことも事実です。実際に、その流れを逆行させようとした1991年夏のクーデターは失敗に終わっています。

もし、習近平政権が現状からのソフトランディングを望むなら、信教の自由と民主主義を漸進的に受け入れるほかはないと思うのですが、現状としては、まだまだそこには遠いようです。

(1)Ned Levin. “Hong Kong Democracy Protests Carry a Christian Mission for Some“. THE WALL STREET JOURNAL Oct 3, 2014
 
(2)Peter Berger. “Is the Chinese Regime Changing its Policy Toward Christianity?“. The American Interest Jun 11, 2014
 
 
(付記)別サイトに、中国の宗教事情についてまとめました。興味のある方は参考にしてください。
「中国の未来とキリスト教」(『Peace & Religion』2015年4月17日) 
「孔子と儒教のいびつな帰還」(『Peace & Religion』2014年11月15日) 

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Posted by k. ogasawara


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